「何か面白い本はないか」
確か、大学時代にも同じようなことを、しかも先生から訊かれたような気がする(苦笑)。わたしは『何か面白い(マニアックな)ものを提供してくれる人物』と、以前からそう思われていたし、それは自分でも当たっていると思う。事実、過去日記の未公開分を含むログには、そのような描写が見つけられる。
このとき、わたしが薦めたのはこの作品。
「面白そう」との評価を得られたので、貸すことになるだろう。本人がずっと読みたければ購入してしまうかもしれないが、いかんせん時間が経過しすぎており、

MIND ASSASSIN 1 (ジャンプコミックス)

MIND ASSASSIN 1 (ジャンプコミックス)

ゆえに、既に置いている書店は(古本でしか)ないと思われる。
発行日を見ると、忘れもしない10年前。わたしはどこでどうやってこの本を見つけたのか、よくおぼえていない。ただ、どうして手にしたのかは、いつも鮮明に思い出せる。
救われたかったのだと。
少年マンガを買うのは、おそらく初めてだったのだろう。これより前に購入しているものが、もれなく少女マンガのみとなっている。よく考えたら、「おすすめ」としながらも、この本を誰にも貸した記憶がないのに気づいた。大学に入ってからは、「寝込んでばかりいると、返せないかもしれないから」貸し借り行為をやめてしまっていたのだった。
今でも、10年近く貸したままの本もあるが、それはたぶん、親友の性格を考えると、大切にひっそりとしまわれているのだろう。また、わたしも借りたままの本があり、焼けないように箱に詰めてある(本棚に入れると思い出せないし、形が崩れたり焼けたりする危険がある)――いつ返せるかはわからないが、本達が眠っている。
書店へ訪れると《マインドアサシン》は文庫にもなっているのを知った。
マインドアサシン》の次シリーズ《明陵帝梧桐勢十郎》は、《マインドアサシン》とほぼ違わない――ようにわたしには思える――キャラクターにもかかわらず、学園ものという設定も手伝ってか、作者の現在の一番長いシリーズとして出版されている(この後、両作品を越えるものを、かずはじめ氏はきっと描けるだろう)
やはり、わたしが《マインドアサシン》を手にするときは、「救われたい」と、知らずのうちに思っているのかもしれないと、何でもないはずのシーンで、ぼろぼろと涙をこぼした。
「忘れたいんです」

「こんな医者、ホントはいないと知っていても、いてくれたらどんなにか良いかなんて、思ってる」
かずい*1のように記憶を壊したり、抹消したりすることはできないが、似たような治療なら存在する。
それはいわゆる『催眠療法』というものだが、当時の主治医(現在の親友の主治医)に「できるならしてもらいたい」と頼んだときに、「知っていると思うけど、あれは一歩間違えると、とても危険なことになる」と、やんわりと拒否された過去をわたしは持つ。「とても危険なこと」を具体的に知ることまではできなかったが、今なら教えてもらえるだろうか。想像はつくが――
晩春の風と陽射しは、もう入ることのないだろう、あの診察室を思い出させる。
「とても痛くてつらい記憶かもしれないが、きっと人生の糧になるし、あなたなら乗り越えられるのではないかと、僕は思うんだけど」
必要ない治療だということは、そういうことだと、言いたかったのかもしれない。
あれから、8年。
わたしは、ゆっくりとだが、向かっている。
出口へ。
そして、かつて目を逸らしていた、わたし自身に。

*1:この表紙のおにいさん。主人公