精神科の待合で、何度も父からの着信がある。あまりかけ直すと互いに通話中になってしまうので(つまり、つながらない)、とりあえず着信を待ってみる。内容は「祖父の具合が悪くて耳鼻科にタクシーで向かっている」とのことだった。メニエールがひどくなったのだろうか? 耳鼻科医院の名前が聞き取れず、ナースさんに代わっていただくと、ポスターがよく薬局に貼られている耳鼻科だったが、医大派のわたしは全くその医院を訪れたことがない為、薬を受け取った際にタクシーを呼んでいただく。迷子になって時間を食っては困る。
しかし、祖父はメニエールではなく、感染症で、喉に膿がたまっていたのだった。
「このままでは食事ができないから、入院してもらうかもしれません」
頭が真っ白になった。
何度も自分は入院しているくせに、いざ親族が入院となると真っ白。「かもしれません」であって「です」ではないのに、入院という二文字が頭をぐるぐると回っている。

父は車を取りに自宅まで戻り、わたしと叔父とで入院の準備をすることになった。こんなときばかりは、入院を何度か経験しておいてよかった、と思ってしまった。何をどれぐらい持って行けば良いか、頭にすぐ浮かんでくるからだ(心配かけまくったのも忘れて)

父が車を取って来たというので、指定された、かつてはわたしが入院していたことのある医大へ行く。夜とだけあって、かなり待たされるが、当直医がいるだけいいんだろうなぁ。もしかしたら当直というよりは、急患で呼び出されてしまっただけなのかもしれないけれども。
「点滴で様子をみてみましょう」
ゆっくり落ちていく点滴は3時間ほどかかり、付き添ってきた父、叔父、従弟、そしてわたしは、椅子に座ってぐたーっとなっていた(点滴まで1時間は待っていたので)が、一番今つらいのは祖父なのだ。

帰りは午前様になった。明日から明後日の容態で、入院かどうか決める、ということだった。