慢性の中耳炎である、右耳が痛む。
ちくしょう、と思うのは、こんなときだ。なぜ、水曜日に痛まないのだ。水曜日に診察されたわたしの耳は正常で、その前の日曜日にひどく痛んで液体が出た。痛いところがある人は不機嫌になる、というのは本当のようで、日曜日のわたしは極端に口数が少なくなった。話すと痛いのだ。数時間続いた痛みは、夜のうちに消えたが、火曜日の夜から水曜日の夜にかけて健康な耳と同じようになり、木曜日にはもう、世界から音が消えかけていた。
そして今、このありさまである。
ちくしょう。
痛い。痛い痛い痛い、痛い!!
手首のように切れるなら、今すぐにでも自分で切開してしまいたい!!

ここで、知らない人なら救急へ行こうと言うかもしれない。耳鼻咽喉科の医師に夜勤はない。せいぜい外科か内科の医師が診て、その場しのぎの鎮痛剤くらいしか出せないというのが、この日本の実情だ。鎮痛剤だけでも、有り難いと思う人もいるかもしれない。だが、余計なことをするバカもいたもので、意味のない抗生物質などを「飲め」と出してくれたりする。これが 耐性菌を増やしてくれる。MRSA保菌者です、抗生物質は主治医と話し合って最後にしか使いません、と言っても、バカはイヤってほど出してくれる。もちろん飲まないので捨てる。勿体ない。
天使の卵 エンジェルス・エッグ》には、そんな描写があり、ヒロインが死んだのは、パッチテストをしなかったがための、薬物アレルギーだ>わたしもいくつかのアレルギーがあり、治療前には必ずパッチテストをおこなわねばならない



どうしようもない痛みを紛らわせるために、この日記を書いている。
インフルエンザの治療薬・タミフルで死者が出たというニュースは、記憶に新しい。わたしは錯乱こそしなかったが、妙にハイテンションだった。41度の熱を出しながら小説を11冊一気に読んで泣いて、日記も書いて「死にたくない」などとほざいている。
わたしが罹ったB型は、A型より弱かったのだが…
精神のほうは、単にメンタル系の薬で落ち着いていただけかもしれなかったのだが、わたしの肝機能はタミフルのお陰で悪化して、副作用だとわかるまで毎日のように検査をしなくてはならなかった。
それも当然のことで、タミフルはウイルスを殺す。ゾビラックスもウイルスを殺すが、使い道が限られているから、タミフルほどに有名ではない。タミフルはインフルエンザウイルスが増殖を始めるまでに服用しなければ意味がなく、感染48時間以内の投与でなくてはならない。父も同じインフルエンザだったが、2日以上経っていたため処方されなかった。
タミフルは確かに効いた。どうやってウイルスを殺すのだろう、抗生物質の仕組みは知っているけれど、抗ウイルス剤は知らない。
「遺伝子の鎖ってありますよね。あれを壊すんですよ」
もちろん、人間の遺伝子にも傷がつきます。
「それ知らないで万能薬みたいに飲んでるって、怖いですね」
そうですね。他の薬もおんなじようなものですが。

万能薬なんてない。
あれば、わたしはリスカなんてしなくても良いのだ。
クリニックのトイレで、コンビニで買ってきたカッターを出して、左手首をまた切った。トイレは汚していません、と主治医に言うと「そういう問題ではない」という、ごく当たり前の態度がかえってきた>傷を気にしていた
左手首は、そのうち傷痕で埋もれてしまいそうだ。
「外に出るときは、刃物を持ち歩いているのですか?」
「ええ。持っていないと不安でどうにかなりそうなんです」
主治医はしばらく、黙って考え事をしていた。そしてわたしは「自分を大事にすることは、自分を大事に思ってくれている人々も大事にすることにつながるのに、わたしは自分を大事になんてできません。せっかくわかったのに、大事にできないんです」と、泣いた。