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何にだって、終わりはある。
そう、たとえば、わたしのこの、いのちさえにも。
だから永遠なんて、どこにもないのだ。
あるとするなら、そこはきっと、桃源郷。
おまえのような悪い子には、そう、ひとを苦しませて哀しませてしまうような子には、ひどい罰が必要だと、薄笑いさえうかべて、わたしは手首にあてた刃を横に引く。
どうしてだろう。こんなに落ち着けるのは。
どうしてわたしは、こんなことをするのだろうか。何にもならぬというのに。
眠るときは、いつもこの香りをまとうのが好きだ。
媚薬のようにも、麻薬のようにも、わたしをやんわりととらえて放すことはなく、ゆったりと琥珀色の毒薬を満たしたバスタブに沈むように、眠らせてくれる。
ほっとする香り、というには、そんな恐ろしい表現が似つかわしくないだろうけど、やっぱりわたしは、この香りが好きで、たまらない。
また、悪い癖が出てきてしまったようで、わたしは何らかの香りをまとっていないと、そわそわする。香りの次は色、色の次は感触――そうした病的なこだわりが、またわたしを締めつけてきゅうくつにする。貴婦人のコルセットを締めつけて苦しみながら、気持ち良いとでもいうように。
「これが欲しかったのよ」
左手首がばんそうこうにまみれて、呟いた。