眠りが浅い日々が続くせいか、時間の経過の自覚まで消えてくる。
過去のわたしが、とてもとても、遠くに見える。
紺色のブレザーの、女の子が、遠くに見える。
ずっと抱いてやりたかった。14のわたし。
いつも泣いているか怒っていたのに、今は安らかに笑ってる。

「さよなら」

今ならば言えるだろう。お互いに。
その近くには、12歳のわたしも居る。
…まだ、泣いている。どうするつもりなのだろう。
「この子はわたしが抱くから、あんたがわたしを抱いてくれれば、良いよ」
紺色ブレザーのわたしが、わたしに言う。高校の制服を着ているわたしに。
「18のあんたが、14のわたしを抱いていてくれているから」
「さよなら」
紺色のブレザーの少女が、消えていく。
あかるい真っ白な方向に向かって。
「今までありがとう。さよなら。あんたのお陰で、わたしやっと行ける」
「どこへ?」
「決まってるでしょ。未来へ行くのよ」
「またね」
「あんたには、もう会わない。だって、あたしはあんたに還るから」
ああ、あれは過去なのだ。そして、わたしは未来なのだ。
それなら、わたしの未来はどこにあるのだろうか。
みんなが居て、わたしが居る。みんなの中にわたしの未来は、ない。
わたしが造るものだから、ないだけだ。
「あんた、18じゃないじゃん。18になったあんたは、一度しか制服を着てないんだから」

早生まれのあんたは、17なんだから。
そう念を押して、14のわたしが溶けていく。
それから。
周囲をはすに眺める、15のわたしが、今はいる。
「おとなになるつもり、ありませんから」

18のわたしは、ときどき、わたしの中に凶暴な感情を呼び起こす。
…まだ、痛いのだろうか。