愛猫を洗う。
猫も犬も、我が家で暮らしている動物は、どうも入浴が嫌いなようである。犬は入浴中にはあきらめてしまっているが、脱衣所から出すと、乾いていないうちから床を転げ回る(これで何度か床と犬に被害が及んだ)ので、注意しなくてはならない。猫に至ってはさらに暴れるので、もっと注意しなくてはならない。
1 浴室は絶対に開けない
2 脱衣所も絶対に開けない
3 居間のドアも閉めておく
どれかひとつでも忘れると、猫はわたしのベッドの下に、濡れていようが乾いていようが滑り込むので、ベッド下掃除の翌日か直後でない限り、ひどい目に遭ってしまう。ドライヤーは先代より静かみたいで、ドライヤーを向けてもそんなに厭がることはなくなっていたものの、ドライヤーの音が嫌いなことにかわりはなく、やはり必死で逃げようとする。
猫という生き物がこんなに乾きにくいと理解していたら、わたしはさっさとトリマーさんの処へ連れていってしまっていただろう。しかし、猫1匹のシャンプーも満足にできず、何が飼い主であろうか!! という《トリニティ・ブラッド》のブラザー・ペテロの如き変な使命感が、わたしを無謀な行為に駆り立てる。
背中は乾いても、どうしてもお腹を乾かさせてはくれない(猫はお腹をさわられるのが嫌いである)から、水気がかなり取れたところで、一度あきらめて脱衣所から解放する。
テーブルの下で、お腹をなめている…
やはり、もう少し乾かさなくてはならない。
犬や猫を飼っているうちに、自然と動物に対する知識も増えてきた。
それでも専門家ではない、むしろ初心者ゆえ、猫の毛も犬のように毎日ブラッシングが必要だと思い込んでいたし、むやみに大声で叱ったり叩いたりしてはいけない――これは正しくもあるが――と思っていた。噛みついてきても叩けないで泣きたくなりながらアハアハ笑っていたら、愛猫はとんでもない甘えん坊で暴れん坊に育ってしまった。
獣医さんに「猫はしつけるときに、犬と違って叩かないとわからないこともあります。どんなときに叩くかは飼い主が判断するしかないんですが、あなたはしつけに『叩く』という行為を入れたほうがいいのではないかと思うのですけれども」と言われたのは、我が家が相当爪と牙でボロボロになり、人間もそれ以上にボロボロになってからだった。
「食べてはならないものを口にしたときに、叩くのはかえって危険ですけれども」
間違えて飲み込んでしまうことも、あるからだ。叩くだの怒鳴るだのする前に、そんなときは口に指を突っ込んで、とにかくかき出す。たまにチョコレートの銀紙を噛んでいたりするような猫がいる家は、ずっと幼いままの子供がいるような家に似ている。
美容院の予約をわたしが入れようとしたのは、猫を拾って数ヶ月後のことだった。
尾瀬羽さんのヨーキーは毛が長いから、2ヶ月に一度はシャンプーが必要だけど、猫はチンチラとかじゃないし、むしろ猫を犬と同じくらいの頻度で洗うと、体壊したりしますよ」
そんなことも知らずに飼っていたのだから、いやはや無知とは恐ろしいものだ。むろん今では、よほど汚れたときか、年に1度くらいしかシャンプーはしない。

つくづく、拭いたらそれで良い人間って便利だな…
と、数時間くらいきちんと乾かなかった愛猫を眺めて、そんなことをふと思った。