父が休みだというこの日、彦根城へ行く約束があった。体温は、あいにく朝から微熱。原因はストレスによる脳疲労(脳そのものが疲労で熱をもっている状態)で、眠剤をギリギリまで飲んでも、たった2〜3時間しか眠れなかったこと。それ以上飲んでも悪あがきにしかならない。大人しく横になって本を読む。ドラールを飲んでも3時間が最大だなんて、これはかなり参ってるんだろうなぁ…もともと半錠、5時間くらいで起きるような量だ。
あまり気にしないことにした。
夜明けが近づいてきた頃にやや眠気到来するも、今度は動悸…さすがにデパス服用。しかし、結局照明を落とすとまたも動悸がするので、つけっぱなしにして転がって本を読む。せめて1時間でも眠れれば、出発にも間に合うし疲れも取れるのでは…と思ったが、甘かった。

眠れないまま、準備時間を迎えてしまう。牛乳と食後の薬のみで、様子をみてみることにした。出かけるしたくをしていても倦怠感があり、取り止めようかとも思ったが、父は「眠れなかったなら車で寝ればいいし、駄目なら途中で引き返して家で休めば良い。とりあえず出かけてみないか」…出かけたい気持ちは、わたしも変わらない。家にずっといては、いくら掃除や洗濯をしても参ってしまうし、わたしの足では市外といっても、三宮や大阪ミナミが限度で、場所を変えるには父の車に頼るしかない。
トラベルミンを飲んで、頓服だのパラソル、るるぶ、はたまた化粧直しグッズ(役立つことがなかった)までも放り込んで乗車。高速に乗っても若干具合が悪いが、動悸も次第におさまり、「彦根まで行ける!!」と思ったら嬉しくなった。嬉しくて、胃痛と倦怠感もまあまあだが、それなり飛んでくれる。
草津までノンストップ。さすがに父娘そろってトイレを我慢するのも限界だ(苦笑)
わたしにはところどころの記憶が抜け落ちているのを、父の言葉で再確認。
「なんか、ここ懐かしい感じがするんだけど?」
「前にここに寄ったことがあるやろ」
「もう、10年以上前だっけ?」
「2年くらい前に信楽に出かけて(正確にはもっと前)るやろ。そんとき寄ったで」
おぼえていない。
このパーキングエリアからは琵琶湖が一望でき、お茶は文字どおりサービスだ。建物の内部を見てみると、確かに信楽へ出かけた折に立ち寄った案内所があり(シャッターが降りていたが)、そこで「行きかたがやっぱりよくわかんない」ので、教えてもらって信楽でさらに迷うという、はた目からすると「何やってんだこの人々は」みたいな冒険? をしたのだった。そのとき、母にはフルートを吹いているフクロウを、父とわたしには、大小親子の白フクロウの、それぞれ焼き物を買ったのだが、これを母に渡したのはカリエス前なので、2年だと計算が合わない。
高校生当時、わたしは安土に旅行したことがあるが、それしか記憶にはなく、言われて見せられてやっと思い出せる程度でしかなかった。あのとき、いきなり天気が悪くなって、三井寺*1でずぶぬれになったことは、忘れられない(バケツをひっくり返したような雨と雷が同時に降ってきた)
草津からは、ノンストップで飛ばす。彦根まで少しだが、野洲や蒲生を通過して、車内ではしゃぐ。前にも通ったはずなのに寝ていたのか、左手には三上山が見える。そして、野洲。《銀の海 金の大地*2の舞台はここだったのだ…
まだ昼ご飯には余裕のある時間に、彦根到着。食欲はやっぱりないし、石段なんて昇るとだるいが、明け方にデパストラベルミンを飲んだあげくにほとんど寝ていないのだから、多少はしんどいものだろう。彦根城には、各地の城の写真が飾ってあり、紹介文も添えられているが、わたしは少しそこで冷めてしまった。
「地下●階、地上●階建て」
そりゃ、城なんだから地下くらいあるだろうけど、問題はこれだ。
鉄筋コンクリート建築
…そう、修復が必要な城は、鉄筋コンクリートと表記されている。確かにそれは嘘いつわりない正直かつ事実にもとづいた表記だが、一気に戦国や江戸あたりから現代に引きずり戻された気分を味わった。嘘とか間違いとか書かれるよりは良いんだけど……すごく、複雑。
ヒーヒー言いながら天守閣に昇り、別の意味でヒーヒー言いながら降りる。階段がものすごくでっかいのだ。この時代に生きた人々を、違う意味でまた尊敬してしまう。うっかりすると、高い場所と段差が苦手なわたし*3は「んがっ」とか言ってしりもちをつくどころか転落しかねないので、とにかく必死で手すりにしがみつく。
そして、やっぱりクラクラする。
城下町*4を目指してお堀を渡ると、白鳥に亀、フナなんだかコイなんだか不明な魚が泳いでいる。わたしは幼い頃から白鳥を見て育ったので、白鳥にまっ先に目が行ってしまい、亀に気づいたのは言われてから…ごめん、亀さん(しかも、色が岩と同化してて見えにくかった)
白鳥もこの時間になるとご飯タイムなのだろうか。長い首をくぐらせて、金網に付着した藻か何かをつついている。どうしても白鳥のツーショットを撮影したくて、子供のようにお堀の前でしゃがんで待ち受けていたが、シャッターチャンスのお陰で撮れた写真がこれなのだから、もう泣くしかない。
ロマンチックじゃないね。これ。

右の白鳥はご飯タイム。


昼ご飯もあまり食べられず(しかも眠気が来て居眠りしつつ)、とにかく食べられるだけ食べて、城下をそぞろ歩く。いったいどれくらいご飯に時間を使っていたのかわからないが、外に出ると、夏もかくやとばかりの陽射しが容赦なく降り注いできた。
…パラソル持ってきて正解。
染め物屋さん、焼き物屋さん、果てには仏具屋さんにまで入り、結局買い物をしたのはお茶屋さんの抹茶ソフトクリームで、これすらわたしは、父のをふたくちしか食べていない…
鮒のなれずしを買うか買うまいか迷い、あきらめる。なれずしと、くさやを買うのとどっちが勇気がいるんだろう?>って、わたしはどっちも食べたことない
数時間ぶりに車に戻ると、外気温33度というとんでもない数字が表示されている。つまり、しばらく密室状態だった車内は、それよりも絶対に暑いのだ…お土産を買うこともなく、ちょっと寂しいが仕方ない。余裕があるときに買えばいいかな。
とか話していたら、父上、多賀サービスエリアで下車。
正直に彦根で買っておけば良いものを(こうして見てみると、お土産に定番のおまんじゅうが城下には無かった)
こんなもの発見…鮎パイ?

自宅に向かうまでは、さすがに混雑している。渋滞というほどではないが、スイスイ進むというほどの速度も出せない。やはり帰りも三上山や蒲生ではしゃぎ、京都なら大山崎ではしゃぐ。
車があまり進めなくて、朝早かったことも影響し、トラベルミンが切れてきてしまっている。父に「あと70分くらい…?」と「さっきの電光表示板にはなんて書いてあったの?」と聞いて、乗り物酔い特有の症状がやや出ているので、再度服用。これで父の前では都合3回薬を飲んでいることになり、「飲まないほうがいいと思うけどね…」と言われてしまった。
次に表示を見ると、運転中の父に聞いたのが間違いのもとだったのか、時間が半分になっている…飲まなきゃよかった…ホント飲まなきゃよかった…嗚呼、薬代ー!!(そっちか!?)


スーパーで簡単な買い物を済ませ、帰宅。確か前にもこんなことがあったような気がする…と思いながらも、いつだったのか、どこへ行った帰りだったのか、思い出せない。奈良だろうか(わたしはほぼ毎年、正倉院展へ行くので)
隣に住む親戚に「彦根へ参りまして、これはつまらぬものですが」と、内心では「黄金色の菓子でござりまする」「そなたもやるのう」「いえいえ、お代官様ほどでは」というやり取りを切望しながらも、通じるかどうか不明なので「みんなで食べてくださいね」と、父の従兄弟にあたる男性のお嫁さん(可愛い。やるなぁ!! と、チビッコの頃より彼を知るわたしは、いつも思う)と話していると、長女登場。パパに似ていて、元気イッパイ、好奇心もイッパイ、隣に住んでいるはずのおねえさんに会ったことなんてあまりないのに、人見知りもしないし物覚えも良くて賢い(月に数度会えば多いほうのわたしをおぼえているから)のだが、父の従兄弟の子供って、わたしにとってどういう関係にあたるのか、わからない。
ええと…
「あー、おばちゃーん」
一瞬、視界に亀裂が走ったのは気のせいだろう。声がハッキリと聞こえるわけではないのだが、右耳が聞こえないとなぜか左耳が補おうとして、検査をすると聴力が上がり、右耳が回復すると下がる不思議なこともあるもので、かろうじて聞き取れた可愛い声と動く唇を読み取って、さんざん悩んだがやはり「おばちゃん」と言われたと判断するしかなかった。
「またねー」
笑顔が凍っていたかもしれない。
父に聞いてみると、やっぱり「おまえ、おばちゃんやで」…
まあ、この歳になってまで「おねえちゃん」と呼べ、というほうが図々しいのだろうが、嬉しいやら哀しいやらで、今も何と日記に書けば良いのかわからない。
そういえば、自分のなかで「おねえちゃん」と「おばちゃん」の定義ってどうなってたっけ…? 「えーとねー、ママより下だったら、おねえちゃん。同じか上だったら、おばちゃんだよ」…昔、そんなことを無邪気に自慢げに、とても残酷に告白して、その『おねえさん』を凍り付かせたこと…確か、あったな…
でも、やっぱり…
嬉しいかな。言葉がどんどん増えていくから。
叔母バカ発揮中

*1:園城寺

*2:氷室冴子の古代ファンタジー

*3:山登りは好き。でも降りられない

*4:キャッスルロードと呼ばれている