(寿を薬くさくしたくなかったので)
昨日は、朝から医大へ。耳鼻科のはずなのに唇をまくって「先生ヘルプ!!」…ダンディな主治医はとってもしみる薬をつけてくれた。本当におんおんと号泣する。ケガを最近していないのでよくわからないのだが、鼻とか口の粘膜の傷って、手足の擦り傷より痛いと思う。しかも薬を塗布されているあいだ、唇をまくったまま動けないわけで、さらに情けない格好だ…。
「どうする? 今手術を申し込んでおく? もう少し待つ?」
その結論は「口にヘルペスカンジダが同居してる可能性を考えると、もう少し体力をつけられるところまでつけてからしようか」…だ。「まず申し込んでおいて、具合が悪いならキャンセル」と「もう少し回復させてからにするか」のふたつの提案があったが、前者にすると1ヶ月でどこまで回復しているかわからない体力での勝負になり、あまつさえキャンセルなど入れれば、ほかに手術をしなくてはならない人の貴重な時間を奪ってしまうことにもなる。
そういった点を考慮しての、後者の選択。
血液検査は時間がかかりすぎたので、また来週に先延ばし。主治医はポーカーフェイスのつもりだろうが、見ているのはわたしではなく、脳内で展開されているわたしの頭蓋骨と予後だ。しかも予定にチューブ留置が加わった。低下している聴力の回復をはかるためだが、抗生物質を飲まねばならないので「同時にできるのなら、手術前に抗生物質を飲みたくない」と返すと、それ以上主治医は薦めてこず「同時も可能だから、そうしようか」とだけ言ってくる。以前のように聴覚が回復するかどうか、チューブを入れても「OK」と断言できるだけの証拠がないせいでもある。

その後は婦人科へ。
耳鼻科から帰るときには、路線を変更しないと婦人科から遠ざかってしまう…のだが、無意識とは恐ろしいもので、気づいたらわたしは発券機の前で首をひとり、かしげていた。
「…あれ? なんでこっちに来てるんだろう」
無意識のうちに、馴れてしまった道順をたどり、切符を購入する直前で硬貨を握りしめて気づいたのだ。しかも大阪という場所は変に入り組んでおり、階段を昇ったり降りたりしないと駅に着けない(彼氏はこれでバテたことがある)。階段を降りてから気づくとは、と、転んでもタダでは起き上がらない根性を利用して、駅前のジューススタンドでミックスジュースを飲む。口は痛いわ、時間はないわで、これがお昼ご飯。
改めて階段を再び引き返し、カロリーの足りなさにクラクラしつつも別路線へ。座れるのがありがたかった。
今年から完全予約制になってしまった婦人科では、急ぎでもないと診察を受けることはできない。定期的な投薬なら診察の必要もなく、処方してもらえるのだが、体調の良し悪し、浮き沈みが激しいわたしは、せっかく予約を入れても「明日なら行けるのに…」と、ベッドで転がっていることが多い。
特に水曜日の午後は「特殊外来」になっていて、心療内科はその時間帯だけにやっていると言われたことがある。ここって婦人科なのに、心療内科やカウンセリングまでやってくれるのか…と驚いたり感動している場合ではなく、「カンジダが暴れまくってて危険らしいので」と、直接受付でねじ込んでもらう(ファックスがその場にないと連絡できないため、予約だけでもわたしはここに訪れることがある――ただし動ける日のみ)
処置後の簡単な診察で「心療内科と精神科の違いがわからなくて(頭では理解できるが)、前のクリニックでは先生がころころ変わるので不安になり、今の精神科へ移ってきた」と話すと、心療内科と精神科の違いをやはり同じように説明され、「ここでは産婦人科心療内科をやっていますが、あなたはどうしたいんですか?」…どうしたいんですか? と訊かれたことがほとんどなかったわたしは、しばらく玄関の看板を見たときのように驚いて、言葉につまってしまった。
「虐待を受けて、赤ちゃんが欲しくても、親になる自信がなかったり怖かったりする人、ここへ来ますか?」
女医さんは何も言わなかったし、家族でもないのに、ほかの患者のことは医者から言ってはならない。わたしはそれを知っていて、あえて質問してみたが、「ここには、カウンセラーがいます。いつも時間を同じだけさけるとは限らないのですけれども」…それが、答えだった。
心療内科と精神科は厳密に言うと「違う科」となってしまうので、「クリニックの方針によってまちまち」らしく、それでもわたしの知っている知識を持ってくると「32条は2ケ所で使えない」ということと、「カウンセリング料を別に取られる」こともあるということしかわからないのだが、少なくとも定期的に婦人科と心療内科に行くことになり、したがって出費はかさむだろう。時間もますます取れなくなるだろう。
今の主治医に不満はない。前よりは不満は少ない。どこで働いていたかも知っているし、専門的なことを噛み砕いて教えてくれる。こちらが不安に思うこともくみ取ってくれる(いわく、わたしはすぐに顔に出てしまうため、言うより先にわかってしまうそうだ)
「あちらと、こちらで診ていただくことはできませんか」
「予約さえ入れていただければ、できますよ」
また、新しい戦いが次々に展開されていくのか。春という季節は、いつもそうなのか。何かが始まり、終わる季節。ただ、わたしには死以外の終わりが今は、見えてこないように思えた。

そして、火曜日と水曜日に駆けずり回った疲れで泥のように眠り、携帯メルマガの読者さんからいただいたメールの返事もできないまま、泥より沼に沈んだように眠りこけた。
さて、文面を練ってお返事をしよう。
その瞬間、携帯につなげたACアダプタのコードが、途中でちょん切れていることに気づいたわたしは、跳ね起きて悲鳴をあげた。
愛猫は細いものはみんなオモチャに見えるようで、真っ二つにアダプタを分解してしまった。よくぞ感電しなかったな…という恐怖と怒りに震えて、悲鳴の次に怒声を飛ばしてしまう。
父は何と言うのだろう…と、どんよりしていても仕方ないので、ずっとやりたかった玄関の掃除をした。洗剤が必要かと思ったが、ホースで水をかけてタオルでこすると、汚れがあれよあれよと落ちてゆき、その面白さにわたしは、父に背後から肩を叩かれるまで気づかず(車で帰宅されても、今の聴力だとわからない)にドアを磨きつづけていた。
…さらなる戦いは、待ってはくれなかった。