リタリンでどうにか体を動かして、医大へ。やはり、飲めば飲まないより素早く何かをできるが、体が重たいのはどうにもならない(そりゃそうだ。体も悪いんだから)…ので、もう飲むのは辞めてしまおう合成覚醒剤。「強くなりたいんです」と言ったばかりの口で「リタリンください」…情けない。さすがに出し渋られたが、どうも先生は診察のたびにリタリンを飲んで動いていると思っていたようだ。…そんなことしたら、今頃体どころか、頭も修復不可能なぐらい壊れてるよ…>もらったことは数度あるが、実際に飲んでいるのは数ヶ月に一度あるかないかしかない。従って12錠ほど余っているが、瓶なので薬包紙で出てきて、ちゃんと管理していないとしけって変質している危険がある。
先週まだあまり出歩けなかったときに「検査結果と術式について」ファックスを送ったら、昨日の夜に主治医の自宅から返事が送られてきていて、中身は「今日来院されなかったので心配です。明日できれば来てください」…金曜日の診察日は4月になるから、今月中には少しでも決めておきたいと書いてしまったからだろう、と、やはり重たい、それでも少しは動かせる体を引きずって医大へ行く。携帯バカに見せつけるようにして電源を切った、まだ新しい携帯をポケットに突っ込む。何がそんなに楽しくて電車で座って携帯いじってんだろう…わからない。端末でつながっていようが、体の一部がつながっていようが(手握ったりしてて)、心が離れてちゃ、離れようとしてちゃ、何も意味なんてないだろうに…
医大は花粉症のせいか、やや混雑している程度。けれど、大混雑よりはずっと空いていて、その辺の椅子に座ることが可能なだけありがたい。持ってきた《ケルト妖精学》を引っぱり出して読む……が、本を開いたまま、何度か学生時代のように居眠りしてしまっていて、ページがあまり進まない。しかし、面白いものは面白くて、ある程度の居眠りで目が醒めると、今度は外来に背中を向ける椅子にしか座れなかったものだから、主治医に肩を叩かれるまでずっと読んでいたりする。
もう、最後の患者はわたしだろうに、シャーカステンをつけてくれない。壁で区切られているし、フィルムもセットしてあるので、ファックスのやり取りの内容などを考えても普通の感覚からいえば、それは自分のCTスキャン結果だ。他の患者さんのフィルムをそこにつけっぱなしにしておくほど、主治医は抜けていない。
「つけていいですか?」
…って本当は患者がつけるものではないけれど、わたしは顕微鏡まで覗いてしまう変わり者(医学生でもないのでただの迷惑患者)で、許可をもらえれば電源をつける。多忙なときは、救急の患者さんのものがかかっていることがあるが、そういうときは見てはいけないので、あらぬ方向を向いて、音叉で遊んだりする。
「いい」とも「だめ」とも言われず。
イヤな予感がした。
何度も自分のレントゲンやCTやMRI、オージオグラフはそれこそ飽きるほど見てきた。それでも長く同じ人にお世話になっていると、もう一挙手一投足で言いたいことがわかってしまうというのだから、自分が良いと思った人にずっと診てもらえるのが幸せなことだとは決して思えないが、ころころ変わられるよりはずっと楽な気持ちでいられる。
主治医の予想よりも結果は「ちょっと?」悪かった。原因は同じ部分が炎症をくり返していたので、抗生物質が「他の部分が万が一感染してもバンコマイシンなんて必要ない」のに、「そこだけ効き目が落ちていて、MRSAの凶悪度が上がっている」というような、ことだった。「本来なら1、でも、これを見たら5くらい」
「この黒い部分って、もう脳ですよね。どれくらい今度は取れますか?」
と、静かに問いかけても、主治医は何も言ってくれなかった。「当初の予定より長めの入院も覚悟しています。治したいんです」――わたしに、他に何が言えたのだろうか?
「長くても3、いや、2週間で大丈夫と思うよ。通院が心配でも」

何もバンコマイシンを使うのが駄目というわけではない。バンコマイシンの耐性菌に感染したら、もう手も足も出なくなるということだけで、耐性がつかないうちに治ってくれれば、それでいいのだから。
その後は自宅に一時戻り、皮膚科へ…もう、本の世界から戻りたくないような気がした。皮膚科の先生にもやはり事情を話し、入院前には多めに処方していただきたいとお願いすると、快諾。背中に薬を塗るためのスプレーは来週にも取り寄せ分が入るとのことで、それまでは、何とか手で塗ってみよう…としても、やはり届かないものは届かない。
帰宅後、食欲が全くない。疲れているなら、寝るしかない。なのに、今日の出来事がぐるぐる回って、眠れない。泣いて取り乱しても始まらないから、涙は出ない。ただ、凶悪な感情を抱いたのは、確かだ。


この菌を造り出したバカを、この菌で殺してやりたい。
赤信号を突っ走るほど要らない体なら、わたしにくれ!!