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寝つきが極端に悪い。寝転んでいても、眠気が去っていってしまう。脳と筋肉が常時かなりの緊張状態であるのが理由だそうだ。普通はこれだけ薬を飲むと、立ち上がることも難しくなるはずだが…
「ものを書くには良い状態なんですけどね」
そんなことを言っても、主治医は真顔を崩さない。
問診すると、ほとんど食事をしていないことがわかったからだ。
「あんまり食べたくないんです」
実際、食欲はあまりない。食べ物を食べ物として認識できない。
「もっとちゃんと寝て、食べてもらわないと…」
弱っていくのはわかっていても、どうしようもない。眠りそのものが浅い。おかしな夢を毎晩みて、わたしはその奇妙なほどのリアルさに、夢と現実を取り違えてしまうこともある……
これでもほぐれない、わたしの緊張って、いったい何なのだろうか?
主治医いわく「緊張は感情の影響を受けやすい」のだそうである。負の感情なんて捨てたいほどあるが、捨てられないのがこのわたし。だったら表に出ないように、せいぜい押さえ付けてやるしかない。
出てくるな、そんなんじゃ良い人間にはなれないよ?
良い大人にも良い女にもなれないよ?
だから出てくるな。お前なんか出てくるな。消えろ。
と、わたしは、真っ黒な感情をぎゅうぎゅうと丸めて押し込んでいる。
もちろん、良い感情はとことん出していく。嬉しい、楽しい、そういったものは。
「お風呂に入っても駄目なら、自分で緊張をほぐす努力をしてもらわないと駄目です」
お風呂につかっても、わたしの筋肉はガチガチに固まったままだ。
先日などは椅子に座ろうとして、背中がこむらがえりを起こした。座ろうとしたのに体がいうことをきかず、持っていたマグカップを衝動でぶちまけそうになった。一瞬だけだが、体の右側がひきつってしまったのだ…
「力を入れて、抜いて、を何度もやって下さい。そうすれば緊張の度合いがわかると思います」
わたしは普通に座っているつもりだが、本当はとても固まっているらしい。
日曜日に、髪の毛をカットしに行ったときも、肩と首をマッサージしてくれたオーナーが「?」と、変な表情をしていたのは、このせいだったのだ。オーナーが力を入れても入れても、わたしの肩はびくともしない。
いつも緊張状態が続けば、どうなるか。
その張り詰めた糸が切れたときにも、どうなるか。
わたしはそれら総てを経験したのに、いつからこんなに緊張しているのか。
わたしの肉体は、どうやらまだ完全に感情を制御する術を知らないようだ。
ヒトが未熟児でうまれてくるように。
わたしは、あらゆるパーツが未熟なのだ。