ソラナックスが効かない…!!
いつもなら落ち着いて、眠気を催すほどなのに。
その前には頭痛薬も飲んでいるはずなのに、すごく苛々する。自分の中にもうひとりの自分がいて「ちょっとそれはないんじゃない?」「落ち着いて考えてみたら?」と呼びかけてくるのに、わたしはそんなわたしを「知るかよ!!」と、殴って蹴飛ばすようにして払いのける。「うるさい、うるさい。おまえなんか知らない!!」と踏みにじられたわたしは、傷まみれになっても、わたしの前に立ちはだかってくる。
「黙れ!!」
しかばねのようになった、もうひとりのわたしは、それでも力にあふれたまなざしを、わたしに注ぎつづける。
「それで良いの? ホントに良いの?」

こいつが居なければ。
わたしは苦しまなくても良いのに――

たったひとかけら残った、わたしの超自我をわたしは疎ましく思う。
その足に「たすけて、わたしを悪い誘惑からたすけて」と、泣いてしがみついているにもかかわらず、わたしは急にしがみついていた『それ』をなぎ倒してしまいたくなる。理由はわからない。
唐突に凶暴なわたしが出てくるため、もうひとりのわたしは、対処するだけの余裕がない。きゅうくつな体のなかで、殺意と破壊衝動が混じりあって蠢いて、すきあらば全て呑み込もうと、その血にまみれた牙をむきだしにして、大きな口をあけている。
呑 み 込 ま れ そ う だ。

その『わけのわからない、突然やってくる苛立ちと破壊衝動』にたえかねたわたしは、朝からクリニックを訪れた。ルジオミールの副作用は、去年のようにひどくない。我慢できる。だけど、この衝撃は我慢できない。抑えられない。
ソラナックスを2倍飲まれたということですが、それならデパケンを出しましょう」
そしてまた、薬はひとつ増えた。
「もう、ギリギリまで何飲んでも良いんです。不必要に苛々したくないんです」
もう、包丁を研いで手首に当てて引くような真似は、したくない。あてつけに切るのか。否、罰のために切るのだ――何故、おまえはわたしを抑えることもできないのだ、と。

…手首に刃物を当てる回数が増えてきた。
あきらかに、わたしの具合は悪い。
切らずに済むのも、いつまでか。