タクシーには、守るべき走行速度などないに等しいようだ。ひどい熱を出して点滴を打ちに行くためにタクシーに向かって手を上げたら、2度素通りされ、今日も2度やられて、怒り狂ったわたしは、駅までタクシーを拾いに歩いた。
起きた時間は1時間前だったのに、どこをどう間違えたのかカウンセリングに間に合わなくなってしまい、タクシーを拾っているうちに受付の人が帰ってしまったため、連絡しようにも「本日の診療時間は終了致しました」という、残酷な録音だけが流れてくる(ちなみに、耳の具合はこのときから下り坂で、今では耳鳴りしか聴こえない)――ああ、どうしよう、先生もきっと帰っちゃってるよ、今まで遅刻はしてもすっぽかしたことないのに、うわぁ怒られる嫌われるどうしよう、どうしてくれるんだこの車ども!!
結局わたしは、飛び込むようにしてタクシーを拾った。そして走った。
なぜか、先生は居た。
尾瀬羽さんの前の患者さんのお話がのびて、今終わったばかりですよ」
すみませんすみませんすみません。と、くり返し謝るわたしのカウンセリングは、こうして途切れなかった。そして、どうしてかこのあと、わたしのあとに入っていた患者さんが「時間を間違えて」入ってきた。
「こんなことは、よくあるんですか?」
「時間を間違えたりする患者さんって結構いらっしゃるんですよ」
「耳鼻科で主治医が知らずに帰ったことありますよ。笑っちゃったけど」
「…わたしは一度だけ患者さんを忘れたことがあるんですが」
「でも、お医者さんだって人間だし、ちょっとくらい忘れますよね」
「いやっ!! それはかんべんして下さい。マジで」
患者が忘れたり間違えたりすることはあっても良いらしいが、どうもその逆は駄目なようだ。わたしはよく主治医に「高校決まった?」と、18歳のときに真顔で訊かれて、ぶすっと「先生、わたしもう大学生やで!!」と何度も説明したら、今度は「大学決まった?」に変わったのであきらめたことがあるが(爆)

悩んでいることの合間に、耳の若主治医をからかった話や、タミフルの話題など入れてみる。疲れているのか、先生はげらげら笑ってくれた。若主治医に関しては、まだまだ色々逸話があるので、また来年にでも笑ってもらえるだろう>鬼!!
タミフルは人を異常にさせるか、という報告がアメリカでありましたけど、わたし、高熱だしてるのに氷室冴子読んで、(ハマって)涙流して11冊一気に読んじゃったんですよ。で、その日の日記に何か『死にたくない死にたくない』ってあって、じゃあ寝てろよって」
「ある意味それは異常かもしれませんね」
先生は、げらげら笑い続けていた。



帰りに、思いついたように立ち寄ったブックオフで、《ワイルド・スワン》全巻と、なぜか犯罪被害者の本、ヒロシマチェルノブイリの本、風姿花伝を買う。変な組み合わせに、我ながら驚いている。
その前に、財布にこれだけのお金があったことに驚いた。